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ふらっと札幌

by カナエナカ(shojiro.nkym)

会社員時代、最後の旅

 「明日はどこへ行こうか」と考え始めて数時間、なんとなくテンションが上がらない。

 旅が好きと公言していたくせに、今回はワクワクよりもちょっとヒリヒリとした感覚があった。数日前まで行くのをやめようかと思っていたほど、私の内臓はそわそわと浮ついた感じ、なぜだか、緊張でギュウッと絞られるような感覚すら覚えている。

 「きっとしばらくはこんな余裕は持てないはず。いま行かなくてどうするの」と自分に言い聞かせ、ようやく明日からの旅支度を始めたけれど、やっぱり気分は乗らないまま。

 なんとなく行きたくない気持ちから目をそらしたくて、流しっぱなしだったFMラジオの愉快な話に耳を傾けつつ、いつもの旅の荷物を無心でかき集める。

「そういえば、あっちの気温ってどのくらい低いんだろ」と、ふと手を止めてしまったけれど、一着あれば防寒できるいつもの軽いパーカーと一緒に、積読されて久しい一冊を詰め込んでスーツケースは閉じられ、あとは明日を待つだけに。

旅に出るのは最後の儀式

 行きたい気持ちを失った旅ほど、道中モヤモヤを抱えることはない。それも、行きたくない理由に自覚がある。

 1つ目は「一人っきりの旅だったこと」。ひとり旅は全然平気だったはずなのに、いつのまにか一人で行く旅の侘しさに気づいてしまったらしい。2つ目は「損しないたいめの行動」みたいで嫌だった。

 会社員だった私は長期休暇が取れるのは稀なことだ、と疑うことなく信じてしまっていた。例にもれず退職前の休み期間で旅行することを選んでしまったのは「長期休めない」という考えに長年侵され続けて過ごしてきた一つの成れの果てみたいなもんだと思った。

 損したくないがために旅に出るだなんて、自分の生き方が随分余裕のないもだったと自覚させられ、なんだか悔しさしかない。

 

とはいえ、せっかくの旅なのだから、何か特別な目的があった方が面白いと思い、交通手段を調べに調べて決めたのは船の旅。

「行きは八戸港から苫小牧までフェリーに乗ろう。」ただそれだけ。

 実はこのフェリー、比較的大きな客船で、売店もあれば食堂もあるし、何より大浴場があるという。乗り気ではないと言いつつも、海の上で大きなお風呂に入れることを想像している瞬間は、ほんのり楽しい気分にもなれる。「海の上でお風呂に入りたい」たったそれだけの理由で予約をしてしまったので、苫小牧についたその先のプランは「ひとまず札幌へいく」以外全く決めきれていないまま、いよいよ私は会社員時代最後の卒業の儀式に出かけた。

行き先は、北海道。

 何度も行こうとして、なかなか行くに至らないまま、気づけは十五年たってしまった。「思い立ったらすぐいく」を心がけていなければ死ぬまで行く機会がないなんてことも起こりうるなぁと反省しつつ、またこうして訪れることができることは喜ばしい。

十六歳の私と、三〇歳の私。

 最後に北海道へ行ったのは、高校の修学旅行の時。あのときのわたしには気になっている人がいて、北海道の大自然や美味しい海鮮よりも彼に気を取られていたせいで、クマ牧場以外あまり大した記憶がない(笑)

 あの浮ついた気分で過ごした青春時代のアホな自分を思い出しながら、冷静に「ああ、私も大人になったわ。」と感慨深くなるのだろう、と思うとあの時の自分に少しだけで会いに行くような気分にすらなって、ちょっとだけ可笑しさが込み上げてきた。もはや、罰ゲームだ(笑)。なんの旅なのかよくわからなくなりつつあったけれど、乗り気でなかったはずなのに、少しだけ楽しくなっていた。

盛岡のまだ見ぬ友人

 まずは最大の目的「海上のお風呂で夜明けを眺める」を果たすべく、八戸に向かうために新幹線に飛び乗る。ただ、それ以外にすることがなく、どこか寄り道をしたいな、と思っていた。どこか寄り道するならどこがいいかと考えてみたとき、真っ先に思いついたのは「盛岡」。以前仕事で訪れたけれど、滞在時間わずか3時間だった土地だ。そのとき移動中の街中で見かけた煉瓦造りの明治・大正時代を思わせるレトロな建造物。あれがなんだったのか知りたくて。

 「これから盛岡へ行きます」

 本を荷物に詰め込んだくせに、新幹線の中でツイッターをするくらいツイッター中毒者な私は、深く考えずに行き先をツイートし、緑が美しい窓の外とTLを交互に眺めていた。

 数分後、青い鳥のアイコンに赤い通知のバッジが灯る。

届いていたのは「いいね」でもなく、「リプライ」でもなく、「盛岡に来られるというツイートを見て、思い切ってご連絡しました、もしよければ少しの時間お茶をしませんか?」という1通のダイレクトメッセージ。

 私のことをフォローしてくれていて、同じブログサービス(いまこれを書いているg.o.a.tというブログサービス)を使ったつながりの人のようだ。

アカウントの様子からは性別が判断しづらかったが、柔らかい物腰と、ブログの写真などの感じから、怪しい人ではなさそうだなと判断し、「嬉しいです、是非お会いできれば」と伝え、会うことに。

 不安半分、楽しみ半分で駅に着いたことを知らせ、待ち合わせの場所に向かう。。あんなに行く気が起きなかった旅は、この人に出会えたおかげで一気に楽しくなることをこのときの私はまだ知らない。

 そして、ついに対面したその方は物腰の柔らかい優しい女性だった。彼女に会っていなければ、私の盛岡の印象は「ジャージャー麺」で終わっていたかもしれない。

(つづく)

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