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栗ごはん

by カナエナカ(shojiro.nkym)

台風が来る、と噂されていた日の朝。

まだ気配もないけど小雨は降り始めていた。

「外に出るのが億劫だな。」と思いながらも、家に引きこもるのも落ち着かない性分なわたしは、近くのカフェに朝食がてら読書でも、と、まだもぐっていたい布団の温かさと決別し、コーヒーを淹れるためにお湯を沸かす。

随分涼しくなったもんだ、とひとりごちて厚手のパーカーを羽織ったその時、

ピンポーーーーーン・・・・。

「宅急便でーす」

なにやらクール便が来たとのこと。受け取った荷物は実家からの食糧の詰まった重たい段ボールひとつ。

そういえば2日前に、姉妹宛てに荷物送るから受け取ってね、というメールが来てたっけな。

伝票を見ると「米・缶詰・肉・その他」と書かれているので、(なぜ肉?)と思いながらも冷蔵庫に入れなくちゃ、と急いで開封。

梨・トマト・かぼちゃ・サツマイモ・玉ねぎ・ジャガイモ・ニラ・鶏肉の味をつけたもの、ツナ缶・・・・

思っていたより色々なものが詰め込まれていて、相変わらずだなぁと苦笑い。

「XXX(地元の地名)の秋の味覚を送ります。たまには連絡してね」

とだけかかれた小さな手紙が入っていた。

一つ一つ、淡々と冷蔵庫に詰め込み、棚に置く。

トマト・ニラ・肉類・レタス・シーザードレッシング。

(ああ、サラダでも作って食べろってことか、これ。)

かぼちゃ・サツマイモ・茶豆。

(近所のおじさんがよくおすそ分けしてくれるやつ。もらいすぎたんだろうな。)

シーチキンの缶詰め

(ああ、また入ってる。よっぽど自分の娘が干物だと思っているのだろう。)

プリッツ・インスタントのドリップコーヒー3袋。

(これまた、またか笑 なぜ毎回送ってくるんだか謎。わたしが好きとでも思っているのか、お母さんのオススメだから、ってことなのか。よーわからん)

梨、そして、母が炊いたであろう栗ごはん。

(秋の味覚を食べさせてくれようって言う心意気か。ありがたい)

そんな感じで、普段たいして料理をしないのですっからかんだった冷蔵庫があっという間にぎゅうぎゅうにされ、どっと生活感を帯びた。

さっきまで優雅に近所のカフェで、なんて思っていたけれど、こんなに送られてきたんじゃあ、普段出張と残業が多くてなかなか家でご飯を食べられないわたしは今食べるしかない。

「せっかくだから、ありがたく朝ごはんにしようか。栗ごはん。」

電子レンジで温めながらぼんやり実家のことを想う。

「元気かな」

普段まったく連絡をしていない自分を後ろめたく思う。いくらなんでも連絡なしなのは冷たすぎやしないのか、と。

そろそろいい年頃なので、電話すると10回に10回、結婚はまだしないのか、いい人がいないのか、とうるさく言われるのが嫌で、自分から連絡をすることはない。

今思えば、高校生の時に大きな病気をして治療のために1年入院したため、両親や家族にはすごく心配をかけた子だった。娘が死んでしまうかもしれない。と心労は大きかったのではないかと思う。

何より治療で体調が悪くてご飯がろくに食べられなかったわたしに実家から数十キロ離れた病院へわたしの好きな食べ物を持って連日会いに来てくれていた。

今思い出すと、苦しかったことはほとんど忘れていて、楽しかった思い出の部分だけよみがえるから切なくて泣けてくるけど、片道1時間ちょっとかけて病院へ通う苦労も厭わないほど、わが子を大切に思ってくれていたんだろうな、と想像すると、親の愛のありがたさに頭が下がる。

そんなわたしは、見事完治して、要領よく大学進学をし、リーマンショック後の就職難の中、就職先を見つけ、いま、ひとり東京で仕事と楽しみに追われる毎日。

もうすぐ30歳。

それはつまり、わたしが生まれて30年たったということで、親もそれと同じだけ歳をとったということ。

父はもうすぐ還暦だ。

地元に帰るつもりはない。あの街に自分がしたい仕事はないし、楽しみもない。
でも、親のことが心配で、これからだんだん衰えておぼつかなくなっていく両親をあんな遠いド田舎に放っておくことを考えると、色々心配になるしできれば一緒にいてあげたいとも思う。もしあの街に戻ることがあるならば、両親以外の理由はないだろうな。

母の送ってきたドリップコーヒーを淹れるとたちまち7畳の狭い部屋にコーヒーの香りが立ち込めた。

わたしが気に入ってたまに淹れて飲んでいるイルガーチェフに比べると随分安っぽい香りだけれど、母がおいしいだろうと思って送ってきた、と思うだけで幾分か幸せな気分になれた。

両親のために地元へ戻っても、両親がいなくなった後はどうするんだろ。

と考えたら、やっぱりやだな、ともおもいつつ、ありがたく栗ご飯にありつく。

栗のほろほろっとっ壊れる感じの食感と砂糖ではないわずかな甘さに、母の手作りを食べられるありがたさをかみしめながら、明日からの仕事を反芻。

「たまには、連絡しなくちゃだめね。」

今日夜、台風で家を出られなくなって、することがなくなったら、お礼の電話をしようと思った。

(フィクションかどうかは内緒です。)

2014年10月にnoteへ投稿したお気に入りのエッセイの転載です。再校して少し変更してます。ちょっと内容的にセンチメンタルで恥ずかしい…笑

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カナエナカ(shojiro.nkym)
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