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築地で珈琲を

by カナエナカ(shojiro.nkym)

今何かと話題のあの街。
私は市場の近くで半年に一度の用があり、ちょうど今年の春頃だった半年前の時点では、「次行く頃にはもうなくなってるんだろうな」と思っていたので、まだそこにあることがちょっと嬉しかった。
せっかくだから、様子を覗きに行きました。

築地の憩いの場

今は、最後に一目見ておこう、という人たちが平日でも続々と集まり、人でごった返している築地。
そんな築地には場内と場外があるのですが、場内には元々は市場で働く人達が食事をしたり、休憩したりする飲食店が軒を連ねています。
築地といえば魚河岸のイメージが強いので、寿司屋や海鮮を使ったご飯屋さんをイメージしがちですが、とんかつ「八千代」や、カレーの「中栄」を始めとする海鮮以外の名店も多く、どの店も長蛇の列。
そんな名店の多い築地の中に幾つか喫茶店もあるようです。

珈琲の店「愛養」

築地で80年以上もの間、市場の人達に親しまれ続けてきた珈琲の店。
以前場内に来た時、その佇まいが心に残ってしまい、いつか行きたいと思いながら行けずじまいだったのですが、築地がなくなってしまう前にここへ来れたのも何かのご縁と思い、入り口の引き戸を引きました。

常連さんも一見さんも居心地のいい場所

初めて一人で入る店は大抵緊張するものですが、特に「築地」という場所柄、常連さんばかりでよそ者は入りづらい雰囲気があるのかなぁと不安でした。
一人で恐る恐るお店の戸をひいて「入れますか?」ときいてみると、カウンターの中から、笑顔の優しいお店のおじさんが快く迎えてくれ、一安心。
カウンターの好きな席にどうぞ、と招き入れてくれました。

この日はミルクコーヒーを注文。

カウンターについてしばらく、ミルクコーヒーを手際よく作ってくれるお店のおじさんを目の前に、お店の雰囲気が好きだなぁと眺めていると、やはり目に入るのは壁の棚に並べられた古びているけれど味のある雰囲気の缶箱。
壁側に並べられた缶の箱が素敵ですね、と話しかけてみると
「そうなんだよ、これ気に入っててね、もうなくなっちゃった会社のものだから、今取引している会社の入れ物並べなきゃなんないんだけど、やっぱり気に入ってるからねぇ」
とニコニコ嬉しそう。
「熱いから気をつけてね」
と、早速ミルクコーヒーが差し出されました。

「おいちゃん」と「ぼうや」

差し出されたミルクコーヒーの熱さを確かめながら恐る恐る飲んでみたり、おしゃべりをしていてしばらくすると、引き戸が開いて一人のおじさんが「よ、久しぶり!」とニコニコ入ってきます。
「おいちゃん、久しぶりだね!」
「おう、ケン坊元気だったかい?」
親しげな二人の軽快な会話を聞いているとなんだか楽しい気分。

なんでも、お店のおじさんが18歳で初めてこのお店でアルバイトをし始めて以来の常連さんだそうで、魚河岸で現役だった頃は1日2回も愛養へ来ていたこともあるというレジェンド。
「ぼうやは元気?なんてみんなが言うもんだからね、元気だったかい?」
江戸っ子な感じのおいちゃん。
歳を尋ねたら若々しすぎて信じられなかったのですが、なんと91歳。
他愛のない会話で市場のこと、海老のことを教えてくれ、
「月一回でも、また愛養へおいで、賢くなれるよ!」
と2桁の掛け算のコツも伝授してくれる大サービス。
その元気いっぱい若々しいおいちゃんに「ぼうや」と呼ばれてしまう、これまた若々しい70歳だというお店のおじさん。
おいちゃんは、「こんな歳になってもぼうやだなんて失礼な話だけど、18の時から知ってるからね、」なんて笑い飛ばしてましたが、長く長く通い続けてくれる常連さんとそれを受け入れてきたお店の関係がとても羨ましく、微笑ましいなと思い、なんだか温かい気持ちに。

しばらくすると、すっと常連のおじさまの目の前にバターをたっぷりと塗り込めたトーストが差し出されます。

トーストのハーフというメニュー。バターとジャムが半分ずつ塗ってある。
トーストのハーフというメニュー。バターとジャムが半分ずつ塗ってある。

愛養名物のトースト、ハーフ。
これまたこのトーストがおいしそう。私も頼めばよかったなぁ。と後悔していると、そろそろ私も次の予定の時間が迫ってきています。
いけないいけない、ミルクコーヒーを飲み終え、一息ついた頃、なぜかお湯のみが私の目の前に現れました。

なんと愛養は最後にアガリ(お茶)が出るようなのです。面白い展開。
他のお客さんも「なんでアガリが出るの?笑」と不思議がって聞いていましたが、
「さぁね。わかんないんだけど、でもうちはお冷は頼まれないと出ないよ〜笑」とこれまた楽しい返事。
寒い日には暖かいアガリはちょうどよく、ありがたくいただいて、おいちゃんに「また来た時は算数教えてくださいね?」と言いながら、お店を後にしました。

お店の暖かい雰囲気で迎え入れてくれ、愛されてる店の良さを、一見の私にも分けてもらえた事がとても嬉しくて、いい日だったなぁと思い出しては嬉しくなるひととき。
これからお店がどうなってしまうのかわからないけれど、あの柔らかい雰囲気に浸りに、また足を運びたくなるお店。
築地へ行ったなら、珈琲の店「愛養」さんへ。いっておいでよ。


カナエナカ(shojiro.nkym)
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