前略、いっておいでよ

東京さんぽ「善福寺公園」

by カナエナカ(shojiro.nkym)

東京に父がやってきた。
久しぶりの父は先週誕生日を迎えたばかり。
律儀にも、私と妹が「誕生日プレゼントに」と送ったちょっとカッコいいリュックを背負って来た。

吉祥寺で待ち合わせ

「これ、軽くてええんよ、ありがとうね。どこで買ぉたん?」

一泊の荷物がぎゅっと詰め込まれたリュックサック。
私が仕事で使っているノースフェイスのバックパックより一回り小さめ。軽くて、アウトドア感すぎず、かっちりともしすぎない絶妙なディテールのサムソナイトのリュック。
父はゴルフ以外は超インドアな人であまりリュックを背負うタイプではないけれど、父によく似合ってて安心した。

実家をつぐために都会からあの街へ戻った父。多分、私と同じで田舎の水はあまり合わない。
それでも地元に根をはるためにいくつものコミュニティへ顔を出し、彼は苦手な人付き合いをしてあの街で根を張った。本位か不本意かは分からないけれど、今あの街でそこそこ好きな事をして暮らしている。
酒を飲むか自然以外、箱物の楽しみは何もないあの街で、親が自分の人生を少しでも楽しんでくれているということは、めったに実家に帰れない私の後ろめたさを少し薄めてくれる気がしてありがたい。

待ち合わせた街は吉祥寺。
父の妹、私の叔母の家がある。叔母の家に行くという事で吉祥寺駅で待ち合わせた。

「この辺随分変わったなぁ。」

30年前、つまり私が生まれる前まで、父は東京に住んでいた。大学も横浜で、そのまま東京の会社に就職した父は30年前の東京を知っている。

「あれ、横丁どこ行った?昔あったと思うんだけど。」

「あ、ハモニカ横丁?あれはまだある、明日行く?」

今、人気のスポット「ハモニカ横丁」は昔からあったらしい。
お酒好きな父に、また今度ね、とたしなめながら横丁をぐるっと巡る。
「この雰囲気やっぱええな、仕事終わりにちょっと立ち寄れるこの雰囲気、寄りたくなるもんなぁ。入ってみたい店沢山あるな、田舎にはこういうのないから羨ましいわ。」
路地にむき出したカウンターの立ち飲み屋、狭い店内には昼間なのに人が集まり陽気に酒を飲んでいる。
甘辛く煮た煮物のみりんと醤油の香りがどこからともなく漂ってくる。あそこの店二階もあって大きいな!と入りたそうにしていたが、叔母が待ってる、といって路地から連れ出した。

「それにしても随分変わった、都会ぽくなった。」と、大型店、チェーン店が増え、大きなビルが立ち込めている吉祥寺駅周辺をぽかんとした顔で眺めまわす父。
まだ観て回りたそうにしていたが、「おばさん待ってるよー?」と急かしながら、ごはんを用意してくれている叔母の家へ向かうバスに乗せ、武蔵野市から杉並区へ。

私と父とは仲は良いほうだと思うけれど、彼は何処と無く、娘である私や妹にいつも遠慮がちな気がしている。
人と接するのが苦手なのか、いつも一線引いている感覚があるのは気のせいなのだろうか。
ちょっと恥ずかしがり屋なのかもしれない。おかげでいつも二人でいると、話題に困って、だいたい経済か時事の話くらいしかしない。

しかし、叔母の家へ行く途中、ちょっと用があるという叔母からの連絡を受けて、少しだけ時間を持て余すことになってしまう、どうしようか、と思ったが、父を散歩に誘った。
以前から行ってみたかった公園が近くにある、と。

善福寺公園

吉祥寺と西荻窪と上石神井のちょうど真ん中くらいの場所。
東京女子大の裏にある、静かな公園。大きな池をぐるっと一周すると軽く15分以上はかかる。
急に寒くなったせいか、木々の葉の色はすでに色づき始めていて、暖かな木漏れ日が葉の落ちた地面に暖かく降り注いでいる。

普段離れて暮らしているので、話す話題は特に思い当たらないから、「お母さん元気にしてる?」「おばあちゃんは最近も旅行三昧?」「鳥取の地震あったけど大丈夫だったの?」なんていう取り留めのない話をして、遂には話題もなくなり、無言が耐えられなくて、池に鴨がいるね、ベンチでお弁当食べてる外国人がいるよ、という話題を苦し紛れに繰り出す私。視線は寒く冷え切った公園の空気の宙を泳ぐ。
静かすぎる善福寺公園。気まずい…苦笑

しかし、その日の善福寺公園にはたくさんのアート作品が設置されていて、「うわぁ、何これー!変な形笑笑」とか、「いっつもやってんのかな。」と、おかげで何とか話題を繋いで一周を回り終えることができた。
微妙な年頃の娘に何を話せばいいのか分からないかもしれない父親と、普段連絡ひとつよこさず滅多に会えない挙句、未だに嫁に行く気配もない肩身の狭い私。結婚とかしないのか?と聞きたげにしている父に、何とかその話題から遠ざけようとたわいも無い話題で一生懸命つなぐ私。
変な空気になったけど、微妙な距離を不思議なオブジェが少しだけ埋めてくれた。

私が子供の頃、仕事に社交に忙しくしていた父と休日一緒に過ごした覚えがあまり無く、あの時の父はどんなだったっけな?と記憶もおぼろげだけど、ちょっとした所作が、3年前に亡くなった父方の祖父を思い出させる。
しばらく会わないうちにやっぱり歳をとったんだな、と改めて認識せざるを得ない。

「春は桜の名所なんだって、おばさんが言ってたよ」

「そうか、またそれ観に来るのもええな。そろそろ行ぉか、おなかすいとるし」

公園を後にして、叔母の家へと。

思っていた以上に自然豊か。
静かで落ち着いた雰囲気の公園をすっかり気に入ってしまい、次は桜の季節に来ようと思っている。

このエントリーをはてなブックマークに追加