前略、いっておいでよ

宍道湖の夕暮れ

by カナエナカ(shojiro.nkym)

私の仕事はサラリーマン。
とても「OL」と言う言葉が似合わない、世の中のお父さんがしているような仕事を同じようにこなしている。

昼休みにはお外でランチ、なんてことは滅多になく、基本会社の下のスーパーで買ってきたお惣菜かお弁当でデスク飯。残業もさることながら出張も多い。
行き先は日本全国。呼ばれれば、仕事があれば、西へ東へと飛んでいく。日が昇る前の暗いうちに家を出て、日が昇る頃に飛行機に乗り、時計の針が0時を回るか回らないかに家に帰ることも少なくない。
化粧を落とすのも面倒くさいくらいクタクタで、どうにか服を脱ぎ捨てて浴びる熱いシャワーで温まった体のまま、大好きな布団にくるまって気を失うように寝る。
ただそれだけを繰り返す時期もあった。

そんな毎日の中、数分、数秒、とても短いけれど、ふと立ち止まって忙しさを忘れる瞬間がある。

夕暮れ

私は朝の日が昇る時間も好きだけれど、夕暮れの時間も好き。
心も体も1日の疲労を纏う頃、美しい色を一目見るだけで一瞬にして意識がふっと持って行かれ、イライラして騒がしかった頭の中が、すんっと静まり返っていく。
日々出会う夕景はどれも同じではないけれど、いつも優しく「お疲れ様ですね」と声をかけてくれている気がするせいか、私の心はふと立ち止まる。
静かに終わってゆく一日の最後の光は、「今日の慌ただしさはいったん終わりにしましょう」という合図なのかもしれない。本当にわずかなその瞬間だけではあるが、嫌なことや疲れを忘れることができるのだった。

宍道湖の夕暮れ

日々数々の夕景に呼び止められてきたわけだけれど、やっぱり記憶に残るのは日本の夕陽100選の中でも指折りの名所「宍道湖」の景色。

思い出の景色に出会ったその日も出張だった。
早朝に東京の家を飛び出して、近隣の街を転々とし、最後に行き着いた島根県松江市。仕事も早めに終わったので、出張時の私の楽しみでありリラックスの時間となる散歩へと意気揚々と出かける。
市街地からのんびり宍道湖へと歩き出し、城下町な街並みを抜け、途中で有名なお肉屋さんのコロッケを買い食いしながら湖に着くと、ちょうど日は沈み始めていた。

宍道湖はとても大きくて海のようにも思えたけれど、水面は波ひとつなく凪いでいる。
対岸の山々が水墨画のようだなあとか、湖に浮かぶ船で釣りを楽しむ人の姿をいいなあと思いながら、燃えるようなオレンジの太陽が沈むドラマティックな落日をただただぼんやり眺めた後、淡く染まった空の色の移り変わりを記憶にとどめるために数枚シャッターを切った。


柔らかくて淡い薄ピンク色の世界を見ていたせいか、恋愛感情ってこんな感じだったかな、と勘違いしてしまうようなうっすら胸がときめく時間。
昼間の慌ただしさも、出張でオフィスに不在だろうがどこにいようが追いかけてくる営業からの仕事の電話にイライラしていた自分もどこかへ置いてきたようにすっぽり忘れている。
日も落ち、辺りは暗くなって街灯の明かりがついていた。
すっかり軽くなった頭と身体で清々しい気分。今日もお疲れさまでした、と自分をねぎらい宿へと戻った。

宍道湖の夕陽の美しさは空の色だけでなく、色を映す静かで穏やかな湖、対岸の山並み、その場の喧騒や、空気の温度と匂い、全部が揃って完成していると思う。

働く毎日は、楽しくもあり刺激的でもあるけれど、それなりに自分を削っている感覚もある。
新しい知識を吸収し、必死に思考を巡らせて生み出し、駆け引きし、苦手なこととも戦う毎日に、だんだん穏やかな気持ちってなんだったんだっ?という恐ろしい状態になっていて、いつしかささくれ立つ心さえ当たり前。自分って本当にやなやつだなぁと気づいては悲しくなる。
やっぱり柔らかくて優しい自分でいたい。

そんな時は、夕暮れに心を持って行かれる時間があればいいのか、と気づかせてくれた宍道湖。
日常の中で、立ち止まって窓の外の景色に心奪われればいい。
それでもダメなら。
慌ただしい毎日から少し距離を置いて、宍道湖の夕暮れを見に行けばいいのかも。
ついでに出雲大社でいいご縁もお願いしつつ…笑

心の休息の景色に出会うために、あなたも行っておいでよ、島根、宍道湖。


※今回はg.o.a.tのPurple Hazeという新しいレイアウトを試してみたくて、「街の素敵な景色紹介+働く三十路女の日常エッセイ」にしてみました。
景色は、島根県松江市の夕景が有名な宍道湖。
素敵な景色や街の自慢を紹介している「City's Pride」さんでは、宍道湖へ行くなら合わせて行ってほしい「島根県立美術館」もご紹介しています。

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